【第1章はこちら】
第2章 仮想世界での「詐欺罪」
犯行現場となったゲームは、株式会社ネクソンジャパン(NEXON Japan)が提供する「メイプルストーリー」という冒険型のオンラインゲームです。2003年8月からのβテストを経て、同年12月に正式にサービスが開始されました。特に未成年の間で人気を集めており、2006年11月現在で140万人のユーザー登録数を誇っています。またゲームだけに限らず、ゲーム内のキャラクターも人気があり、アニメーション化も決定されるなど、更なる事業展開が期待されるでしょう。
最初に伊藤は06年4月28日から30日にかけて、香川県東かがわ市内の自営業男性(38)のIDとパスワードを勝手に使ってメイプルストーリーにログインし、ゲーム内に貯められていたポイントの消費やキャラクターアイテムの譲渡を勝手に行っていたようです。運営会社のサーバーの通信記録より、108回の不正アクセスがあったことが判っていました。むろん他人のIDでログインを行うことは、不正アクセス禁止法違反に該当します。男性が東かがわ署に被害を訴えた結果、伊藤は8月30日、同署より不正アクセス禁止法違反容疑で1度目の逮捕を受けました。
そして後に詐欺罪に問われる犯行は、06年6月24日のことでした。
この日、伊藤はやはりメイプルストーリー内で、ゲーム内で入手できるアイテムや仮想通貨で購入できる「ポイントアイテム」を他ユーザーに譲渡することが出来る「プレゼント機能」を悪用します。ゲーム内のチャット機能で、千葉県の男子高校生3年のユーザー(18)に、「ガシャポンチケット送ってよ。代金を払うから」等と、ポイントアイテムとの取引を持ちかけました。しかし伊藤は、プレゼント機能よりアイテム2点(1300ポイント=1300円相当)を送信させた直後にそのままログアウトし、結果的にアイテムを騙し取ったわけです。これが「オンラインゲーム詐欺」となった行為です。実際、伊藤だけではなく、同ゲームではこのようなアイテム詐取行為が頻発していました。もともとのプレゼント機能は他ユーザーにアイテムを送信するための機能ですから、交換取引に見せかけて一方的にアイテムを詐取することは起こるべくして起こったと言えるでしょう。もちろん、これが刑法の「詐欺罪」に問われようとは、前例がなかったこともあって被害者も加害者も意識していなかったでしょう。
06年9月25日、香川県警などは最初の不正アクセスで起訴されていた伊藤進一を、千葉県の高校生からオンラインゲーム上で使用できるポイントアイテムを騙し取ったとして詐欺容疑で再逮捕しました。このようにゲーム内のアイテムを詐取して詐欺容疑が適用された全国初の事件となりました。伊藤は犯行動機を「自分もだまされた経験から、もうけてやろうと思った」と供述し、さらに「100人以上から2万〜3万ポイント(2万〜3万円)分のアイテムをだまし取った。仮想通貨の方をだまし取ったこともある」と更なる詐取を自白したことが報じられました。
ここで、刑法の詐欺罪を見てみましょう。
第二百四十六条 【 詐欺 】 第一項 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 第二項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
伊藤の行為は、この刑法第246条の第2項に該当しての再逮捕を受けました。香川県警では「被害者が購入した、ゲーム内でサービスを受ける権利を奪ったことが、財産上、不法な利益を得たと判断した」としました。第1項にも該当しそうですが、やはり「財物」に特定のゲーム内で使用可能なポイントアイテム(間接的に現金を支払っての購入)を含めるのは難しいのでしょうか。
第3章に続く…

|